愛すべき吸血鬼達

ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュ伯爵
出典:『ドラキュラ』(1897) ブラム・ストーカー著

云わずと知れた現代の吸血鬼の代名詞。「吸血鬼=ドラキュラ」という世間に誤解
までさせている。
名優ベラ・ルゴシやクリストファー・リーの影響もあり、長身痩躯、容姿は若く、イケ
メンのイメージが強いが、原作では眼光鋭く、鷲鼻、眉毛や髭が濃い初老の男性
として描かれている。
世の吸血鬼マニアが揃って口にするのは、
「今のドラキュラを見たら、さぞストーカーは嘆くだろう」
カーミラ・カルンシュタイン伯爵夫人
出典:『カーミラ』(1872) シェリダン・レ・ファニュ著

ドラキュラほぼ同列の女吸血鬼の代名詞。映画や演劇でもドラキュラの次に題材
とされることが多い。だが、出現は『ドラキュラ』よりも早く、ブラム・ストーカーに強
い影響を与えた。『ドラキュラ』誕生の要因とも云われている。
彼女の犠牲者は主に清楚な美少女で、襲うシーンもドラキュラと違い幻想的で美
しい。
現代のメディアではドラキュラとカップリングされることが多いという不幸な一面も
ある。
フランシス・ヴァーニー卿
出典:『吸血鬼ヴァーニー、或は血の饗宴』(1847)
     ジェイムズ・マルコム・ライマー著

正確な作者は判明しておらず、トマス・プレスケット・プレストという説もある。史上
初の吸血鬼の視点で描かれた超長編小説。ヴァーニー卿の波乱万丈な生涯は
当時、廉価な週刊連載形態で読み告がれ、大衆の圧倒的な支持を得た。あまり
に膨大なストーリーと突飛な展開から幻の書とされていたが、近年のネット配信と
ペーパーバックでの復刻から再び注目を集めている。日本での完全翻訳を望み
たい。
ルスヴン卿
出典:『吸血鬼』(1819) ジョン・ポリドリ著

当初は詩人バイロン卿の著作と誤解されていた。ルスヴン卿があまりにも彼に似
ていたからである。真実は、バイロン卿の主治医だった作者が復讐の意味を込め
て故意に彼をモデルに描いている。当時の反響は凄まじく、幾度も演劇化され、
「ルスヴン卿」こそ吸血鬼の代名詞だった。
原作では主人公の妹を手に掛け、まんまと逃げ去って終わるが、演劇では勧善
懲悪が徹底された。後の作家達にも多大な影響を与え、『ヴァーニー』にはその
類似点が多い。
ジェラルダイン
出典:『クリスタベル』(1797) サミュエル・テイラー・コールリッジ著

文学史上初の吸血鬼。だが、本編は未完成である。
森の中の乙女クリスタベルを堕落させようと企む魔女。吸血する場面は無いが、
少女の生気を奪う姿は今日の吸血鬼スタイルの先駆と云えよう。日本でも過去に
翻訳されたことがあるが、残念ながら絶版。
彼女の誕生でお解かり頂けるだろうが、世界初の怪奇文学的吸血鬼は「女性」で
ある。
ブルンヒルダ
出典:『死者よ目覚めるなかれ』(1800) ヨハン・ルートヴィヒ・ティーク著

死後、夫ヴァルターが雇った妖術師の力によって蘇るが、既に彼女は人間ではな
く吸血鬼だった。人間として蘇る筈が、血の渇きを訴えるようになり、始めは無垢
な子供を餌食にしていたが、遂には夫を襲うことになる。
日本未翻訳である為、詳細は不明。当時かなりの影響力があった。
オーガスタス・ダーウェル卿
出典:『断章』(1816) バイロン卿

代表的な英国の詩人バイロン卿によって描かれた史上初の男性吸血鬼。その内
容は後に現れるポリドリの『吸血鬼』とほぼ同じである。ポリドリがこの『断章』を
以ってルスヴン卿を誕生させたのだ。残念ながら未完である為、決定的な吸血鬼
シーンは無い。このことからも、バイロン卿に吸血鬼のイメージが染み付いてしま
ったことは已む無しとも思える。
日本でも何度か翻訳されているので、眼にする機会は多い。
クラリモンド
出典:『死女の恋』(1836) テオフィル・ゴーティエ著

物語はクラリモンドと若き司祭ロミュアールとの恋の顛末を、ロミュアール本人が
語っていく。三年間、彼は毎夜クラリモンドに血を与え続ける。一件に気付いた老
司祭によってクラリモンドは抹消されてしまう。だが、ロミュアールは彼女を失った
ことに深い後悔を覚えるのだった。
我が身を滅ぼしても共にいたいと思わせる、吸血鬼独特の抗い難い魅力を強く印
象付けている。
コスタキ
出典:『蒼白の貴婦人』(1848) サレクサンドル・デュマ・ペール著

ポーランドからの亡命者ヘドヴィッヒが山中、コスタキ率いる山賊に襲われるが、
コスタキの腹違いの兄グレゴリスカに救われる話から始まる。兄弟から熱烈な求
愛を受けるが、コスタキが何者かに殺される。そして…。

エドワード・ルイズ・ウェイランド
出典:『ヴァムパイア・タペストリ』(1980) スージー・マッキー・チャーナス著

ユニークな美男子(?)。半世紀を眠り続けた後に現代社会に復活。人類学の教授
の仮面をつけて潜り込んでいた。シリーズ中ではサン・ジェルマン伯爵とも邂逅。
アツォ・フォン・クラトカ伯爵
出典:『謎の男』(1860) 作者不詳

カルパチア山脈に潜む騎士。アツォとヴォイスラウ達の戦いが繰り広げられる。内
容は『ドラキュラ』と類似点が数多くあり、ストーカーがこの作品から影響を受けた
ことが窺える。ヴォイスラウの義手の力を同類(即ち吸血鬼)の力と勘違いするな
ど、この伯爵、ちょっと間が抜けな一面があり、何だか憎めない…(-v-)
ヴァルダレク伯爵
出典:『夜ごとの調べ』(1894) スタニスラウス・エリック・シュテンボック伯爵著

初期の代表的な男色家吸血鬼。諸国を旅するハンガリー貴族。ウロンスキー家を
訪れた彼は動物に愛される少年に眼をつける。ある夜、少年の姉が夢遊病状態
でヴァルダレクのピアノに聴き入る弟を発見する。そして間もなく、少年は彼のキ
スを最後に息を引き取ってしまう。
血を吸うのではなく、曲の調べと共に犠牲者の生気を奪う姿は印象的である。
サラ・ケニヨン伯爵夫人
出典:『サラの墓』(1900) F・G・ローリング著
1630年に絞殺されたケニヨン伯爵家最後の女性。生前から既に幼児や動物の血
を吸うという性癖があった。1841年に墓が掘り起こされ、近隣の村人を襲うように
なる。

クリスティーナ
出典:『血は命の水だから』(1911) F・マリオン・クロフォード著
ジプシーの娘。美青年アンジェロに失恋し、更に盗人に殺害された薄幸の少女が
無念の為に蘇る。元凶のアンジェロの血を啜るが、結局は抹消されてしまう。彼女
の眠る塚は常に不吉なオーラを発する。


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